椎茸の甘辛煮が食べたくて
“思い立ったが吉日”という言葉があるが、世の中には思い立ったその瞬間に、実行に移すことが難しいものもあるのだと思う。
椎茸の甘辛煮もその一つではないだろうか。
私のタイミングも悪いのかもしれない。
しかし、大抵夜なのである。
朝でもなく、昼でもなく、夕方でもない。
夜の19時ごろ。
夜ご飯を作ろうとキッチンに立った私はふと思う。
「あ、椎茸の甘辛煮が食べたい」
干し椎茸買っておいたはず、と乾物を収納してある収納ボックスをあさる。
あった、あった。
いつ食べたくなるかわからないから、この前多めに買っておいたんだよね、とにんまり。
食べたいときになかったりするからさ、ちゃんと考えたのです。
学習です、学習。
さすが、私。
鼻歌でも歌いたい気分だ。
まあ、音痴だから歌わないのだけれど。
久しぶりに作るからちゃんとレシピを確認しようとスマホに手を伸ばしかけて、私は固まった。
干し椎茸の戻し時間が7~8時間かかることを思い出したからである。
…落胆。
この一連の流れを懲りずに何度も繰り返してしまう。
椎茸の甘辛煮は夫婦ともに好物である。
無論、作り置きや冷凍保存ができるのだから、食べたいと思ったタイミングでなくても作ればいい、それだけの話だ。
それでも、毎度レシピ確認が必要なほどたまにしか作らない理由は単純である。
待てないのだ。
私は待てない。
正確には、調理できる状態になった段階で、椎茸の甘辛煮を作ろうという気持ちを継続できているか自信がない、といった方が正しい。
大まかな献立を立てても、当日の気分次第では総入れ替えもざらで、その日のやる気次第で予定していた品数も平気で増減する。
そんな私が、数時間後の未来の私に調理を丸投げすることなどどうしてできるだろう。
やる気満々の今の私に出来ることが、汚れを落として水につけるだけだなんてあんまりだ。私は今、やる気に満ち溢れているのだから ― 。
そんなことを考えながら、椎茸の甘辛煮作りを断念してはや一か月。
ついに昨晩、私は決意した。
明日の私に椎茸の甘辛煮作りを託そう、と。
寝る前に椎茸の汚れを落とし、ボウルへ放り込む。
水を入れ、均一に戻るようにキッチンペーパーを被せる。
冷蔵庫へしまいながら、明日の私へエールを送った。
そして今日、昨晩の私からの熱いエールを確かに受け取り、ついに椎茸の甘辛煮を完成させた。
25分ほどの、あっという間の出来事であった。
つまり、何が言いたいかというと、
念願の椎茸の甘辛煮を食べて幸せな気持ちになったよ、というただの報告なのでした。